春眠（春の睡眠不足）と事故の関係

牡丹華（ぼたんはなさく）

本日4月29日（月曜日）は七十二候（1年を72に分けた暦）の「牡丹華（ぼたんはなさく）」です。

牡丹の花が咲き始める頃で、牡丹の花が咲いたら《 春が終わり 》を迎えます。

上品な香り、格調高い風格で、王者の花と呼ばれる牡丹の花は、20日間ほど楽しめることから、別名を「二十日草（はつかぐさ）」といい、春の終わりを告げる「季節の目安の花」なのです。

余談ですが、牡丹の花といえば…

江戸（東京）が舞台の日本三大怪談の一つに「牡丹灯籠（ぼたんどうろう）」という作品があります。

牡丹の花をあしらった灯籠を持って、恋した男のもとにお露さんという女性の幽霊が訪ねてくる怪談話です。

牡丹の花を飾りたてた灯籠だか提灯だかがでてくるので、すると、このお話は、夏前の 晩春の頃 ということになります。

他の怪談はどうなのか調べると、

夫・伊右衛門とその愛人に毒を盛られたお岩さんが怨霊となる「四谷怪談」はというと、赤穂の浪人である伊右衛門が、忠臣蔵の討ち入りの日（1703年（元禄15年）1月30日）の前に討たれるという 冬のお話 でした。

お菊さんの亡霊が井戸で夜な夜な「一枚、二枚…」と皿を数える「番町皿屋敷」は、セイショップがある東京・千代田区の番町が舞台のお話（市ヶ谷駅近くの五番町、旗本・青山主膳の屋敷）なのだそうですが、お菊さんは正月に大事な皿を割ったことから、江戸時代の正月が新暦だと1月末から2月初旬ですので、恐らく、2月〜3月頃となる 初春の頃のお話 なのかなと思いました。

怪談の旬と言えば、トリハダを立てて涼しくなる夏場ですから、いずれも1月〜5月頃となり、真夏ではないのが意外でした。

きっと歌舞伎などの夏の公演に合わせて、夏前の時期のお話に設定したり、肌寒さを感じる季節感にしたのかもしれませんね。

ちなみに、毎年7月26日が「幽霊の日」なのだとかで、1825年（文政8年）7月26日に歌舞伎「東海道四谷怪談」が江戸・中村座で初演されたことに由来しているのだそうです。

春眠、暁を覚えず（春眠不覚暁）

中国・唐の時代の詩人・孟浩然（もうこうねん / AD689〜740）の『 春暁（しゅんぎょう）』の漢詩の一節です。

暖かい気候の春の夜は短く、そして眠りは心地よいので、明け方になっても目がさめません。

そう、春は、なんだか眠いのです――。

――では、どうして眠いのでしょうか？

一説には、春の天気が不安定で、さらに、いろんな環境変化によるストレスも多い時期だから、だそうです。

春先は、暖かい南風が吹いてきたかと思うと、急に冬に戻ったような寒さに変わったりしながら、しだいに春が深まっていきます。

旧暦の3月（現在の4月9日〜5月7日頃）は「晩春」と形容します。

5月は一年のなかでもっとも気候の良い時期とされます。しかし、今年のゴールデンウィークのように、夏のような暑さとなる日もありますが、夜になるとまだまだ肌寒い日が続きます。

日中の昼間は、気温が25度以上にもなって、日差しで暑さを感じ、真夏のように紫外線も気になるものの、夜は15度以下まで冷え込みますので、夜や早朝には上着が必要だったりします。

ちょうど昨年（2023年）の4月末頃、中国・四国地方では、上空に冷たい空気が流れ込んだ影響で、夜には氷点下まで冷え込んだこともありました。

春は、眠っていた動植物を目覚めさせるほどの暖かさとともに、すぐに天気が変わる不安定な状態から、私たちの心や身体に特別な影響を与えます。

私たちの“睡眠”の質というのは、天気や気温の変化や、心理的なストレスなど自律神経の変化に大きく関係していることが知られています。

また、春は、多くの会社が年度末で、事業年度が替わります。
学生は卒業やら新学期やらが始まる頃で、引越しなどの大きな環境変化があったりと、割と多忙な時期なのです。

とくに季節の変わり目となるこの頃は、人の体がまだ気温の寒暖差の変化にきちんと対応しきれていないことや、色々な環境変化のストレスもあって、自律神経のバランスが崩れてしまい、それにより睡眠の質が低下し、眠気が残ってしまうようです。

春は睡眠不足による事故に注意しましょう！

世界的に有名な人為的ミス（ヒューマンエラーと呼ぶ）による大事故のうち、

「スリーマイル島(TMI)原子力発電所事故（1979年3月28日）」や、「スペースシャトルチャレンジャー号爆発事故（1986年1月28日）」、「チェルノブイリ原子力発電所事故（1986年4月26日）」

は、いずれも作業員らの“睡眠不足による眠気がその原因となった可能性”が事故報告書で指摘されています。

これら睡眠不足に原因がある事故のうち、多くが“春頃”に発生しているようです。。

実際に、スリーマイル島原発事故とチェルノブイリ原発事故は、「春」に発生しました。

そして偶然にも、福島第一原発事故（2011年3月11日）も“春”でした。ただ、こちらは睡眠不足は関係ありません。

日本でも、今からちょうど12年前の2012年（平成24年）4月29日、死者7人、重軽傷39人をだす居眠り運転による大事故がありました。

「関越自動車道高速ツアーバス居眠り運転事故」です。

群馬県藤岡市の関越自動車道上り線の藤岡ジャンクション付近で高速ツアーバス（都市間ツアーバス）の運転手が居眠り運転をして、乗客を乗せたバスが防音壁に衝突して大破しました。

この大事故はマスコミで大きく取り上げられました。

当時、国の規制緩和で新規参入のバス会社が増え、便利で安い高速バスの利用者が増えるにつれて、価格競争が起こっていました。安全対策が軽視され、運転手の長時間労働など待遇悪化などもあって、事故が増加していた頃の大事故です。

事故を契機に、政府により厳格な貸し切りバス事業者の制度が定められることになり、これにより従来の「高速ツアーバス」は廃止されて「新高速乗合バス」へと移行することになりました。

…というわけで、春は心地よい気候ではあるものの気候は変わりやすく昼夜の寒暖差もまだ激しく、そして、生活面でも種々の環境変化によるストレスも多い時期で、かえって“睡眠の質”が不安定となる季節なのかもしれません。

睡眠不足による不注意から人為ミスや事故を起こしやすい季節かもしれないことに留意し、ＧＷだからと浮かれて夜更かしをしないようにしましょうね。

皆さま、よい休日をお過ごしください。

◆執筆者
SEI SHOP(セイショップ)総合プロデューサー
平井敬也（ひらい ひろや）

防災士（日本防災士機構登録No.040075）、日本人間工学会会員。
1970(昭和45)年、東京都世田谷区生まれ。神奈川県横浜市在住。日本大学大学院で安全工学・人間工学を専攻。大学院修了後、大手ゲーム製造メーカーに入社、企画開発、ＰＬ（製造物責任法）担当や品質管理（ISO9000）に携わる。2001(平成13)年、災害用長期備蓄食〈サバイバル®フーズ〉の輸入卸元、株式会社セイエンタプライズ取締役に就任。阪神淡路大震災で家族が神戸で罹災、日常の防災意識や危機管理の啓蒙普及を企図した無料メールマガジン『週刊防災格言』を07年よりスタート。毎週月曜日に防災格言を発信し続け２万人の読者を得ている。
【書籍】天災人災格言集―災害はあなたにもやってくる! ¥1,650(税込)