縣 智丈(あがたともたけ)さんは、基本的に自分で見つけた洞窟や、洞窟があるであろうと思われる場所へ探検に行くため、実際に入洞した洞窟数はそんなに多くはないそう。
その反面、未知の洞窟の発見や未踏洞窟の探検数においては、世界でもトップクラスの実績を誇ります。
そんな縣さんの探検活動を応援するために始まった「洞窟探検家 縣智丈の探検記」。
このシリーズでは、縣さんの探検の軌跡を追いながら、洞窟探検の魅力とスリルをお届けしています。
《Vol.3》では、縣さんがこれまでに経験した中でも特に印象深い「忘れられない洞窟」を3つご紹介。
これらの洞窟は、縣さんにとって特別な思い出が詰まった場所であり、探検家としてのユーモアと洞察力が光るエピソードが満載です。
ぜひお楽しみください!
Cave01:猟師に狙われた洞窟
岐阜県の竪穴洞窟を探検することになった私たちは、洞内泊を伴う探検に胸を躍らせていた。
洞窟の入り口に立つと、ひんやりとした空気が肌を包み込み、静寂が耳を圧迫する。私たちは慎重に足を進め、暗闇の中へと消えていった。
洞窟の中はまるで別世界だった。壁には無数の鍾乳石が垂れ下がり、足元には水が滴り落ちる音が響く。私たちはライトの光を頼りに、未知の世界を探索し続けた。洞窟の奥深くには、自然が作り出した美しさと神秘が広がっていた。
探検の最終日、私たちは洞口へと戻る道を進んでいた。最後の竪穴ピッチを登っている時、洞口周辺に何かの気配を感じた。熊だったらどうしようと不安が頭をよぎり、私は石を投げつけて音で散らそうとした。
すると、突然「だだだだだだっ」という音が洞口に向かって走ってくるのが聞こえた。驚いて振り返ると、そこにはライフルを構えた猟師が立っていた。彼の目は鋭く、私たちを狙っているようだった。
私「人です!人です!撃たないで!」
猟師「人?人なのか?」
やり取りの末、なんとか事なきを得たが、わずか5メートルほどの距離でライフルを向けられたのは、後にも先にもこの時だけだった。心臓がバクバクと鳴り響き、冷や汗が止まらなかった。
Cave02:初めての海外洞窟

初めての海外遠征は中国の竪穴だった。
あの時、日本隊として初めてマイナス700メートルを越える深さまで到達したが、ロープが足りなくなり、やむなく撤退することになった。
洞窟の奥深くに広がる未知の世界を目の前にして、引き返さなければならなかった悔しさは今でも忘れられない。
翌年、再び挑戦しようと計画を立てたが、日中関係の悪化により遠征は中止となった。それ以来、この洞窟への探検意欲は停滞してしまった。
しかし、あの先に何が待っているのかを見ていないだけに、いつか機会があれば再び挑戦したいという思いは消えることがなかった。
その後、この洞窟は中国隊によって再び探検され、マイナス900メートルを越える深さまで到達した。これにより、この竪穴は中国で2番目に深い洞窟として記録されることになった。
私たちが到達できなかったその先には、どんな景色が広がっているのか、どんな発見が待っているのか、想像するだけで胸が高鳴る。
いつの日か、再びこの洞窟に挑戦し、未踏の地を探検することができる日が来るだろう。
その時こそ、あの時の悔しさを晴らし、洞窟の奥深くに眠る秘密を解き明かすことができるに違いない。
Cave03:悪臭の洞窟
二度と行きたくない洞窟、それはオマーンのティークケイブだ。
この洞窟は世界有数の大陥没(ドリーネ)であり、ほとんど雨の降らない砂漠気候の中で、洞窟の底には数少ない水が見られる場所だ。そんな貴重な水がある場所には、当然ながら動物たちが集まってくる。洞窟の周辺には牛やラクダの糞が足の踏み場もないほどに散らばっていた。
その糞は、たまに降る雨によって池の中にも流れ込んでいた。洞窟はその池の奥にも続いているように見えたが、進むためにはどうしてもその池を渡らなければならなかった。服が糞臭くなるのは嫌だったので、私は意を決して真っ裸でその糞の池を泳いで渡ることにした。
冷たい水が肌に触れると同時に、鼻をつく強烈な臭いが襲ってくる。泳ぎながら、私はこの洞窟に二度と来ることはないだろうと心に誓った。
池を渡り終えた時、体中にまとわりつく臭いと疲労感が一気に押し寄せてきた。
ティークケイブは私にとって忘れられない体験を与えてくれたが、それは決して良い意味でのものではなく、二度と行きたくない洞窟として、私の記憶に深く刻まれることとなった。
[おまけ] 1番行ってみたい洞窟

私がいちばん行ってみたい洞窟、それはスロベニアにあるプレジャマ城、通称「洞窟城」。
既存の洞窟にはあまり興味がない私ですが、この場所は特別です。観光目的でも訪れる価値が十分にあります。
プレジャマ城は、13世紀にゴシック様式で建設されました(16世紀にルネッサンス様式で再建)。城の一部が洞窟の崖の中腹に組み込まれており、その壮大な景観はまるで物語の中から飛び出してきたかのよう。
この洞窟は、ヨーロッパに現存する唯一の洞窟城だと言われており、ギネス世界記録にも登録されているのだそう。
プレジャマ城は洞窟探検とは一味違った魅力を持つ場所です。既存の洞窟には興味がない私でも、この城の魅力には心を奪われました。
もし機会があれば、ぜひ訪れてみたいと思っています。
PROFILE

縣 智丈(あがた ともたけ)
1972年生まれ。愛知県出身。
探検家。元気商會店主。社団法人・日本ケイビング連盟理事、Japan Exploration Team副隊長。
幼少のころから活発的で、今まで手を出したアクティビティは数知れず。広く深くをモットーに、高水準で全てをこなし、それらで培った技術をフル活用し、「人の知らない場所・人が足を踏み入れた事がない場所」を探し求め、国内のみならず世界を巡る探検家。主な対象は洞窟で、人跡未踏の更に先「人知未踏の発見」に情熱を燃やす。
元気商會HP:https://www.genkishokai.shop/
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