おはようございます。
本日で、東日本大震災から 4,512日 が経過しました。
先週7月10日、九州北部を猛烈な集中豪雨が襲いました。
気象庁は、線状降水帯が発生した福岡、大分の8市町村に大雨特別警報を発表しました。
被害を受けた地域の一日も早い復旧をお祈りしています。
―――専門家によると、日本上空を東西5400キロメートルにわたって大量の水蒸気が流れ込む「大気の川」が梅雨前線に沿うように発生していたことが影響したということです。
ニュースで流れた「大気の川」。
恥ずかしながら初めて聞きましたので、耳慣れない気象用語を調べてみることにしました。
「大気の川(Atmospheric
River(AR))」は、1992年12月に米MITの気象学者で、地球温暖化研究の大家でもあるレジナルド・ニューウェル(1931~2002)博士らが提唱したもので、地表から1万数千メートルほどの高さまでの対流圏(地球の成層圏と地表の間にある大気層)には、大量の水蒸気を含む「大気の川」が常に存在していて、発達しながら移動しているのだと、最初の論文(“Tropospheric
rivers? – Apilot study”)にありました。
なるほど「大気の川」は発見から30年です。
そういえば「線状降水帯」も、2007年に気象庁気象研究所の加藤輝之氏らが著書で初めて使った新しい気象用語だそうで、まだ16年です。
比較的に新しい言葉なので、日本の豪雨(線状降水帯)とこの「大気の川」との関連性については、今現在も研究まっただ中の最新科学なのだそうです。
恐らくですが、2018年頃から研究が本格化している分野なのかと思っています。
さて、豪雨災害のメカニズムを考えます。
雨をもたらす「梅雨前線」や「秋雨前線」は、日本の上空で停滞します。動かずに停滞しているから、前線に沿った同じ地域では長雨が降ることになります。
ではなぜ停滞するかというと、前線(冷たい空気と暖かい空気の境目で地表と交わる部分を前線と言う)の境目で、暖かい空気と冷たい空気が等しい力でせめぎ合っていることから、上下左右に動けず、ほかの前線に比べて動きがとても遅くなるのが“停滞前線”なのです。
一方で、局地的な集中豪雨の原因とされる停滞する「線状降水帯」は、発達した積乱雲(入道雲ともいう)が次々と同じ場所で連鎖的に発生する状況を指す気象用語です。
雨をもたらす「積乱雲」は強い上昇気流によって空高くまで発達しますが、発達した積乱雲は、高さ1万メートルをゆうに超えるまで成長するそうです。
そしてこの積乱雲の頂上部分が対流圏と成層圏の境界面(高さ1万数千メートル程度)にぶつかると、ちょうど天井にぶつかった煙が水平に広がるように雲の形が平たく崩れていきます。
平たく崩れた積乱雲は非常に危険で、雲の下では突風を伴う激しい雷雨(ひょうも降る)となります。
これが数十分と短時間に降るだけなら単なるどしゃ降りの雨ですが、同じ場所や地域で長時間にわたって降り続き、3時間雨量で200ミリ~300ミリと雨が積もれば、水害や土砂災害に発展する可能性が高まってきます。
この時期に風水害が多くなるのは、以上のようなメカニズムがあるからです。
…では、いったいどこから大洪水になるだけの大量の水が来るのだろうか?
(尚、私は専門家でないので突っ込みどころ満載かもしれません。)
地球温暖化で海水面が暖かくなって蒸発した大量の水蒸気が雲(大気中の水滴や氷の粒子の集合体)の中に蓄積されていき、雲の中で水や氷の粒となってお互いにぶつかり合いながら大きく成長していき、ある程度重くなると雨となって地表へと落下する―――
なんて雨が降る理由をよく聞きますが、なんとなくモヤモヤして納得しきれません。
一説には巨大な積乱雲の中には最大600万トンの水があるとも言われているそうですが、豪雨災害を引き起こすほどのまとまった水分がどうやって運ばれてきたのか説明が足らないような気がするからです。
2014年8月の広島豪雨(広島土石流災害)の際には、広島市安佐北区で3時間に220ミリ近い雨が降ったそうですので、もし仮に600万トン全部雨になって降ったとしたら…(そんなことないと思いますが)、このとき約52キロメートル四方の広大な範囲で、深さ22センチの雨が降り積もった計算になります。
水は必ず低いところへと溜まっていくと考えると恐ろしいことです。
で、そこで今回の「大気の川」の報道です。
なんとなくのモヤモヤが解決した気になりました。
これまでも、日本の梅雨・秋雨の時期の集中豪雨の時期には、昔から、熱帯付近から日本方面へと数千キロメートルも延びている雲が観測されていました。
広島豪雨の際も、インドシナ半島から延びる長い雲が観測されていたそうです。
つまり、これらが大量の水蒸気を運ぶ「大気の川」だったということで、その時の集中豪雨がもたらした多量の雨水分の供給源だったかもしれない、ということなのでしょう。
ほとんどの自然災害は地球・惑星規模の現象が関わっていると言われていますが、本当に地球規模なんだなぁ、と感じられた長大な「大気の川」との出会いでございました。
それと同時に、気象観測の範囲と精度が増すごとに科学が発展し、新しい科学的な発見や検証に伴って、災害への対処も進化していくのだろう、こういった好循環も期待できると思えたのでした。
世の中の科学者に感謝しつつ、今週の冒頭コラムでした。
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◆執筆者
SEI SHOP(セイショップ)総合プロデューサー
平井敬也(ひらい ひろや)
防災士(日本防災士機構登録No.040075)、日本人間工学会会員。
1970(昭和45)年、東京都世田谷区生まれ。神奈川県横浜市在住。日本大学大学院で安全工学・人間工学を専攻。大学院修了後、大手ゲーム製造メーカーに入社、企画開発、PL(製造物責任法)担当や品質管理(ISO9000)に携わる。2001(平成13)年、災害用長期備蓄食〈サバイバル®フーズ〉の輸入卸元、株式会社セイエンタプライズ取締役に就任。阪神淡路大震災で家族が神戸で罹災、日常の防災意識や危機管理の啓蒙普及を企図した無料メールマガジン『週刊防災格言』を07年よりスタート。毎週月曜日に防災格言を発信し続け2万人の読者を得ている。
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