おはようございます。
先月7月28日(火曜日)に九州を襲った震度7の地震「 令和8年熊本地震(M7.1) 」から 1か月 (35日目) です。
死者38人(災害関連死の可能性2人含む)、重軽傷者364人、住宅被害4万3,292棟(全壊1,748棟、半壊3,301棟、一部損壊28,455棟、分類未定9,788棟)に及びました。
7月30日のピーク時には415か所の避難所に10,467人が避難していました。この1か月で11市町61か所まで避難所の統廃合が進み、今なお2,442人が避難生活を続けています。
発災直後は最大で約10万8,000戸が断水しましたが、8月28日に熊本県内すべての上水道が復旧し、断水はほぼ解消されました。(8月28日現在)
ただ、住まいの再建や生活再建はこれからが本番で、今後も災害関連死を防ぎながら、一日も早い復旧・復興が求められています。
2024年1月1日の「 令和6年能登半島地震(M7.6) 」から 2年8か月 (974日目) です。
2011年3月11日の「 東日本大震災(M9.1) 」と「 福島第一原発事故 」から 15年5か月 (5653日目) を迎えました。
2016年4月14日と4月16日の2日間に震度7が2度襲った「 熊本地震(M6.5、M7.3 死者275人、重軽傷者2,739人) 」から 10年 (3792日目) です。
1995年1月17日の「 阪神・淡路大震災(M7.3 死者6,437人、重軽傷者43,792人) 」から 31年 (11550日目) です。
米国とイスラエルによる対イラン攻撃(2月28日)から、6か月 (185日目) です。
ネパール・チベットの氷河崩落による大規模土石流と洪水
8月26日午前8時37分(日本時間午前11時52分)、ネパールと中国・チベット自治区の国境付近のヒマラヤ山脈「ランタン・リルン峰(標高7,200m)」北側斜面の氷河が大規模崩壊し、氷と岩石が渓谷へ一気に流下しました。
崩落面は、推定長さ1.5〜2キロ、数百万立方メートルの氷と岩石が、標高約5,200メートル付近から1,000メートル以上も落下したといいます。
そのエネルギーは地震計でマグニチュード5.2相当と観測され、一時は地震災害と誤認されたほどでした。
日本だと震度5弱〜5強を観測するような比較的大きな中規模レベルの地震エネルギーです。
崩落した氷河と岩石は、谷底の河川(Lhende
Khola)をいったんせき止めた後、わずかな時間で決壊し、巨大な土石流・洪水となって下流の中国側のギーロン(Gyirong)国境検問所やネパール側のラスワガディ周辺を次々と襲い、崩壊地点から数十キロも離れた下流の施設や集落でも洪水となりました。
死者約750人、行方不明者約3,000人、合わせて約3,800人以上にのぼっています。(2026年8月30日現在)
報道によると、この付近では、11年前の2015年4月25日にも、ネパール中部地震(M7.8)の直後にランタン雪氷の大規模崩壊が発生しており、谷底の集落で少なくとも300人以上が亡くなる災害があったそうです。また、昨年2025年7月も今回の災害現場に近い国境地帯で、氷河湖決壊による洪水があり、ラスワガディの橋梁流失や国境施設への被害があったといいます。
過去の崩落と今回とでは、場所も発生形態も異なります。
だから、過去に災害があったのに対策をしていなかった、のではないでしょう。現地では過去の災害から「危険なのは崩壊地点の周辺」などと想定していたと思われますが、今回は、前回と同じ場所で、同じ災害が起きたわけではなく、しかも、事前に大雨や地震もなかったので、本当に突発的に、想定していないような規模の災害が発生したのではないかと思います。
一般的な土石流なら、事前に、集中豪雨(線状降水帯)、台風など引き金となる状況があるものですが、しかし今回は、大規模な降雨が確認されておらず、明瞭な大地震も発生していない状況で発生したとされますので、事前に「危険だ」と判断できる異常といった判断材料が乏しかった可能性があります。
…さて、歴史的にも、こうした山体崩落が原因で壊滅的被害をもたらした大規模土石流や大津波の発生事例は多々ありました。
日本では、1792年に島原半島の雲仙岳・眉山(まゆやま)が火山活動に伴って大規模崩壊し、数億立方メートルの岩塊が有明海へ流れて巨大津波を発生させ、対岸の熊本(肥後)を直撃した「島原大変肥後迷惑(死者約15,000人)」という日本史上最大級の火山災害事例が知られています。
今回の氷河崩落災害と似ているのが、2021年の「インド・リシガンガ災害」で、この時は、ヒマラヤで氷河が崩壊し、氷と岩石が谷へ落下し巨大土石流となって死者・行方不明者約200人を出しました。
また、1970年にはM7.9の地震直後に、ペルー・ワスカラン山の氷河が崩壊して土石流となり、死者約20,000人という被害も発生しています。
1963年には、イタリアのバイオントダム(Vajont Dam)の山腹の約2億6千万立方メートルの岩が一気に湖へ滑落し、高さ200メートルの巨大津波が発生(死者2,000人)した事例や、1958年の米国アラスカ・リツヤ湾では、大きな地震(M7.8)で約3,000万立方メートルの岩石が湾へ落下し、最大波高524メートルという、東京スカイツリーに迫る高さの巨大津波が発生した事例などが知られています(世界最大津波記録)。
特筆すべきは、今回のネパール・チベットの災害では、豪雨や地震でもなく、火山噴火でもないところで、突然発生したという点です。
調べると、ランタン・リルンでは以前から氷河や永久凍土の不安定化が指摘されていたそうです。そのため専門家の間では、地球温暖化に伴う氷河の後退や永久凍土の融解が、こうした高山域の斜面崩壊リスクに影響している可能性があるとして注目が集まっているようです。なお、今回の崩壊との直接的な因果関係については、現在も調査が続いています。
映像を見ている限り、このような事例の多くは、山体崩壊から土石流等の到達が数分程度と極めて短時間であり、避難の猶予はほとんど無いように感じられます。
報道や研究者の解析から分かっている範囲では、氷河・岩盤崩壊発生は8月26日8時37分(現地時間)で、崩壊から約7分後には、すでに下流約20キロメートルのラスワガディ国境検問所付近に洪水・土石流が到達したと報告されています。現在の解析では、崩落後に天然ダムが長時間形成されたというより、崩落とほぼ同時に巨大な土石流・洪水へ移行した可能性も指摘されています。
災害後になると、「後から考えれば異常があった」という証言が必ずと言ってよいほど聞かれます。しかし、本当に想定外の災害というものは、発生前には異常と判断できる材料が乏しいことも少なくありません。
こうした突発的な災害から命を守るためには、異変の兆候が見つかった段階で情報を共有し、直ちに行動へ移せる仕組みが重要なのでしょう。しかし、今回のように発生からわずか数分で下流へ到達する災害では、それすらも容易ではありません。
自然の脅威の前では、人間の予測や対策にも限界があります。
だからこそ、過去の災害事例から学び続けることの大切さを改めて感じさせられる出来事でした。
何とも気の毒で、やるせない災害です。
石川県・富山県・福井県で記録的豪雨(8月27日〜8月30日)
秋雨前線による“長雨”の季節に入りました。
各地で8月平年を大幅に上回る記録的な大雨が降り“水害”が相次いでいます。
8月下旬、大陸から日本列島に長く伸びた「秋雨前線」が日本海側や東北北部の付近に停滞し、それに加え、日本列島の南海上の台風や、日本海を進む低気圧などの影響もあり、停滞する秋雨前線に向かって周辺から暖かく湿った空気が継続的に流れ込み、北日本とくに北陸地方で雨雲が発達しやすい気象状況が続いています。
とくに石川県能登地方と富山県西部では「レベル5大雨特別警報」が発表され、線状降水帯の発生などにより12時間、24時間で300ミリを超える雨を観測した地域もありました。
8月27日(木曜日)未明、石川県羽咋市や石川県志賀町で1時間に約100ミリ、12時間に羽咋市で317.5ミリ、氷見市で317.0ミリ、石川県宝達志水町で237.0ミリを記録する、いずれも観測史上最大を更新する猛烈な雨が降りました。
気象庁は8月27日午前6時20分に、石川県羽咋市や富山県氷見市など5市町に「レベル5大雨特別警報」を発表し、一時約18万人に「緊急安全確保」が出されました。
最高レベルとなる「レベル5大雨特別警報」が発表されるのは、8月13日の千葉豪雨以来、史上2例目となります。
北陸や東北ではその後も雨が続き、福井県嶺北では8月29日(土曜日)夜から激しい雨に見舞われ、8月30日(日曜日)未明までに、24時間降水量で勝山市で350.5ミリ、福井市美山で318.0ミリ、坂井市春江で314.0ミリ、大野市で279.5ミリなど、いずれも観測史上1位を更新する記録的な大雨となりました。
気象庁で、8月30日(日曜日)午前4時半に、福井県に「レベル5大雨特別警報」が発表され、一時約30万人超に「緊急安全確保」が出されました。
石川県・富山県・福井県では記録的豪雨により住宅浸水や河川氾濫、土砂災害が相次ぎました。
8月30日時点で人的被害は軽傷1人にとどまっているものの、住宅被害は全壊1棟、半壊3棟、床上浸水約200棟、床下浸水約480棟の計約690棟に達しています。
引き続き雨が続く予報で、この後も低い土地の浸水や河川の増水や氾濫、土砂災害に厳重に警戒してください。
今年8月中旬には関東地方(千葉県)でも記録的な大雨となりましたが、このような局地的な豪雨は気象条件次第で全国どこでも発生する可能性があります。
行政が公表しているハザードマップで浸水想定区域や土砂災害警戒区域といった低い土地にお住まいの方は、日頃から、避難場所や避難経路を事前に確認しておくとともに、懐中電灯、携帯ラジオ、モバイルバッテリー、飲料水、非常食、常備薬などをまとめた非常持出袋を準備したりして、いつでもすぐに避難できる状況を想定しておきましょう。
また、あわせてスマートフォンの充電を確保し、気象情報や避難情報をすぐ確認できるよう備えておくことも大切です。
近年増加するゲリラ豪雨や線状降水帯による集中豪雨
今回の北陸豪雨に限らず、近年は全国各地でゲリラ豪雨や線状降水帯による短時間の記録的な大雨が相次いでいます。
8月には千葉県で1時間115ミリという猛烈な雨が観測され、死者・行方不明者15人、重軽傷者46人、4,095棟に及ぶ大きな被害が発生しました。
こうした極端な豪雨は決して珍しいものではなくなりつつあります。
気象庁によると、全国の1時間50ミリ以上の大雨の発生回数は、1976年〜1985年の年平均約226回から、2016年〜2025年には約340回へと約1.5倍に増加しています。また、1時間80ミリ以上の大雨は約1.8倍(年平均 約14回→約25回)、1時間100ミリ以上の猛烈な豪雨は約2倍(年平均 約2.2回→約4.4回)に増加しており、特に雨の強い現象ほど増加傾向が顕著です。
※気象庁 > 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
さらに、気象庁は近年の極端な大雨の増加について、地球温暖化がすでに影響を及ぼしているとの見解を示しています。
気温の上昇により大気中に含まれる水蒸気量が増えることで、ひとたび雨が降ると短時間に大量の雨となりやすくなるためです。また近年の豪雨事例では、温暖化によって豪雨の発生確率や強度が高まったことを示す研究結果も報告されています。
日本では、多くの河川や下水道などの排水施設が、過去の降雨実績をもとに、基本的に1時間50ミリ(1平方メートルあたり50リットルの水が降る計算)の雨に耐えられるように整備されてきました。
しかし近年は、それらの想定を上回るような短時間豪雨が発生するケースも増えています。
豪雨の規模が大きくなれば排水能力を超えてしまい、これまで被害が少なかった地域でも浸水が発生する可能性があります。
もちろん、将来の気候変動を見据え、河川や下水道の整備能力を高めていくことは重要です。
しかし、すでに日本は、人口や経済が右肩上がりに成長し、大規模な公共事業を全国一斉に進められた高度成長期とは社会状況が異なります。既存インフラの老朽化対策や維持管理にも多くの費用が必要となる中、これまで以上の豪雨に対応する施設を全国へ短期間で整備することは、容易ではないでしょう。
災害とは、自然現象そのものではなく、自然の力が社会の備えや防御力を上回り、人命や住宅、財産などに被害をもたらしたときに発生するものです。同じ大雨でも、河川や排水設備が耐えられれば被害を抑えられます。しかし、その防御力を維持し、さらに強化していくためには、予算だけでなく、技術者や作業員、資材、地域社会の担い手、そして国全体の経済力や活力が欠かせません。
今後、豪雨がさらに強まる一方で、人口減少や高齢化、インフラの老朽化が進めば、行政による施設整備だけですべての被害を防ぐことは、次第に難しくなる可能性があります。
これまで安全だと思われていた地域でも、排水能力を超える雨が降れば浸水することがあります。「堤防や下水道があるから大丈夫」「過去に浸水したことがないから安全」とは、必ずしも言い切れない時代に入りつつあるのかもしれません。
そうした意味で、豪雨災害は特定の地域だけの問題ではありません。「気象条件が重なれば、全国どこでも同じような災害が起こり得る」という警告は、気候変動の影響が顕在化しつつある今、ますます重みを増しているように感じます。
これからの時代は、「自分の地域は大丈夫だろう」と行政の対策だけに頼るのではなく、ハザードマップで自宅や勤務先の浸水リスクを確認し、避難場所と避難経路を家族で共有しておくことが重要です。あわせて、飲料水や非常食、常備薬、懐中電灯、モバイルバッテリーなどを用意し、停電や断水、物流の停止にも備えておく必要があります。
豪雨は地震と比べれば、気象情報などから危険の高まりをある程度把握できる災害です。
ただし、発達した雨雲による局地的な豪雨は、予測より早く状況が悪化することもあります。
「警報が出てから考える」のではなく、日頃から気象情報や避難情報に関心を持ち、危険が迫る前に行動することを心掛けたいものです。
《 執筆者 》
SEI SHOP(セイショップ)総合プロデューサー
平井敬也(ひらいひろや)
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