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青空の下、遠景に雄大な桜島がそびえ立ち、山頂から大きな噴煙が上がっている様子

おはようございます。

2024年1月1日の「 令和6年能登半島地震(M7.6) 」から 2年5か月 (896日) です。

2011年3月11日の「 東日本大震災(M9.1) 」と「 福島第一原発事故 」から 15年 (5576日) を迎えました。

2016年4月14日と4月16日の2日間に震度7が2度襲った「 熊本地震(M6.5、M7.3 死者275人、重軽傷者2,739人) 」から 10年 です。

1995年1月17日の「 阪神・淡路大震災(M7.3 死者6,437人、重軽傷者43,792人) 」から 31年 です。

米国とイスラエルによる対イラン攻撃(2月28日)から、今日で 3か月 (108日) が経過しました。

桜島噴火で“灰神楽(はいかぐら)”のお話(鹿児島市)

桜島は今年に入って37回噴火を繰り返しています。(2026年6月8日時点)

桜島は「小規模噴火も含めて回数カウント」をするため、同じ年でも数百回になることが普通だそうで、実際、昨年2025年は(361回)、2024年(99回)、2023年(215回)、2022年(235回)、2021年(145回)、2020年(432回)も噴火しました。1955年の統計開始以来の最多記録は2011年(996回)となるそうです。
つまり、鹿児島では、噴火が日常風景に溶け込んでいるのです。

そして、先週6月7日(日曜日)、未明から桜島の小規模噴火が相次ぎました。

大量の火山灰が立ち上がったものの、当初は北寄りの風だったので、西の鹿児島市街への影響はありませんでした。
ところが、温帯低気圧の影響で風向きが変わり、東寄りの強風(最大瞬間風速18.4メートル)に煽られた火山灰が鹿児島市の広い範囲に降りそそぎました。市街地が灰まみれとなり、車が走ると灰が舞い上がる“灰神楽”のようになった、と地元新聞(西日本新聞)やテレビのニュースらが一斉に報じています。

…さて、鹿児島では天気予報の代りに「灰の予報」を見て行動を決めるのが普通で、降灰は日常と言えます。

ただ、噴煙が上空を覆い隠し、昼間であっても周囲が真っ暗になるような「ドカ灰(明確に被害を感じる規模の降灰)」の発生は、そう頻繁に起こるものではないようです。
先日の鹿児島市の都市部を襲った大規模な“灰神楽”騒動も、今年になって初のことだったそうです。

こうなると、洗濯物の外干しができないだけでなく、視界不良による交通への影響も大きく、また、灰が固まると除去がだんだん難しくもなるため、自家用車や家を毎日清掃しなければなりません。もう市民は大変です。

そうした火山とともに暮らす人たちの苦労を“灰神楽(はいかぐら)”と“雅”に表現したのは、いつ頃に誰が最初に言い出したかは定かではありませんが、きっと相当昔から“灰神楽”という慣用的な言い回しを使う文化はあったのだろうな、と想像します。


“灰神楽”の科学的メカニズム

「灰神楽(はいかぐら)」という言葉は、江戸時代の調理・暖房器具である火鉢(ひばち)や囲炉裏(いろり)や竈(かまど)などで、湯沸かししていた鉄瓶の口などからお湯や水がこぼれて、ボワッと灰が激しく舞い上がる様子を、神が舞い降りる際に起こるとされる「神楽(かぐら)」の伝統神事の激しい舞いの動きに見立て、比喩的にユーモラスに例えたことから生まれた日常言葉(慣用表現)の一つとされます。
いわゆる民間の俗語(スラング)と考えられているようです。

火鉢といった炭火を使う暖房器具は、日本では奈良・平安時代から存在しており、もともとは宮廷や貴族などの限られた上流階級の持ち物だったそうです。

昭和30年代くらいまで昔の家の応接間の床には「囲炉裏」が埋まっていましたが、こうした火鉢や囲炉裏が、民間に広く普及しだしたのは江戸時代以降と考えられています。

火鉢や囲炉裏から煙がブワッと舞う状況は、昭和時代の片田舎ではそう珍しくもない日常風景の一つだったでしょう。

ブワッと灰が立ち上る不思議な光景をみた子ども時代に「これを灰神楽と呼ぶ」と新しい言葉を教わったら、その子はきっと事あるごとに“灰神楽”を使いたくなるかもしれません(それを日常言葉という)。

実は火山学者のなかにも、火山噴火でもうもうと灰が舞っている噴煙を「灰かぐら」と呼んだり、火砕流がもうもうと煙を上げて斜面を流下する様子を「灰かぐら」と比喩的に使う専門家もいらっしゃいますが、たぶん正式な火山用語ではありません。

火山噴火では、数千℃の溶岩に触れた水分が、一瞬で超臨界状態となり、劇的な体積膨張をひき起こした結果、物理的な大爆発「水蒸気爆発(衝撃波を伴う)」という現象を起こします。

一方で、火鉢などの火はおよそ 100℃〜数百℃ 程度ですから、科学的にいうと正確には水蒸気爆発は起こしません。
ただ、鉄瓶の口からピュッと飛び出した水は、炭の熱を蓄えた“きめ細かい”灰の中に染み込むと同時に、灰の中で100℃に達し、激しく沸騰して一瞬で水蒸気になります。
火鉢などに数センチ〜10センチ近く積もった多量の灰の隙間で水蒸気が膨張した結果、水蒸気は逃げ場を失い、灰を押し上げて煙のように灰が上へと“ブワッ”と舞い上がる訳です。

もくもくと煙が立ち上ぼる様子は、火山噴火の水蒸気爆発を彷彿とさせます。きっと大昔から、噴煙を灰神楽に見立てた人が多かったことが容易に想像できます。


では“灰神楽”はいつ生まれた言葉か

この「灰神楽」という表現は、明治時代の文献には割と頻繁に出てきており、落語などの世界では、江戸の長屋などで、おっちょこちょいな住人が火鉢をひっくり返したり、湯をこぼして部屋中を灰だらけにするドタバタ劇の描写として好んで使われています。

また、明治から大正時代の文献では、地震で粉塵や土埃が激しく舞う様子を「灰神楽」と表現した震災手記も見かけます。
ですが、古文や史料だとこうした比喩は使われずに「灰下る」「空暗し」といった直接表現がほとんどです。

調べると、どうやら平安貴族らは「灰神楽」という言葉を使っていなかったようです。

火鉢自体は平安時代からありましたが、「灰神楽」という表現が使われるようになったのは、江戸時代以降と考えられているそうです。

その理由は、平安貴族の「美意識」にもあるかもしれません。

「雅(みやび)」を重んじ、無骨や粗野で場違いなものを「興ざめ」だとして嫌う傾向にある貴族の美意識にとって、言葉遣いや立ち振る舞いも「雅=優雅」である条件でした。

火鉢に水がこぼれて灰がブワッと激しく舞い上がる「灰神楽」の状態とは、いわば「家事の失敗やドタバタ劇」を表す言葉です。もし宮廷の火桶(ひおけ)で灰が舞い上がったら、それは「優雅さとはかけ離れた、恥ずべき不手際」となるかもしれません。

実際、灰神楽が起こると、落語などでは、長屋じゅうが灰だらけとなるため掃除も大変で、思わず笑い飛ばしたくなる失敗談となります。

平安文学『枕草子』では、貴族たちは火鉢(火桶)の炭が白い灰に包まれている様子を、こんな風に語ります。

《 冬は、つとめて(早朝がいい)。雪の降りたるはいふべきにもあらず。

 霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも(寒い朝に炭火を運ぶ様子は)、いとつきづきし(ふさわしい)。

 昼になりて、ぬるくゆるびもていけば(寒さから、だんだん暖かくなってくると)、火桶の火も、白き灰がちになりて(火桶をついほったらかして、灰を白くしてしまい)、わろし(よくない)。》

火鉢に炭で暖を取るのが日常であれば、必ずどこかで灰を激しく巻き上げる「灰神楽のような興ざめな事態」はたびたびあったはずですが、平安の文学の中には、そういう表現はでてきません。恐らく、下品と貴族が思うような表現をわざわざ好んで使用することもなく、単に、いちいち文章にする現象でもなかった、というだけなのかもしれません。

「灰神楽」という語呂は、どこかコミカルで躍動感(オノマトペ)のある言葉ですから、文献や、火鉢が普及した時代背景から考えてみても、江戸時代の庶民の暮らしとユーモアから生まれたものと考えるのが自然です。
そのため、平安貴族たちがこの言葉を口にすることはなかったと考えられているようです。

今でこそ「灰神楽」というと、どこか“雅”な響きを覚えますが、それは、基となる火鉢や囲炉裏が現代の家庭に無いからであり、単に現代人が灰神楽を想像し難いからなのかもしれません。

灰神楽の本質は、灰や埃が舞う状況を解説する便利な俗語というだけで、どちらかというと、灰だらけになって「うわ、最悪」と騒ぎたてているよなイメージです。そうすると、雅とは程遠く、だんだんと幼稚な言葉に思えてくるから不思議ですね。


“灰神楽”と桜島噴火を紐づけた文学作品

大正3年(1914年)1月の桜島大正大噴火の直後に、小説家の加藤武雄(1888〜1956)が架空のペンネーム・烏勘左衛門(からす かんざえもん)名義で日本書院から同年4月に出版した小説『東京見物』には…、

酔った男女が、火鉢に花生けを落とし、勢いよく灰神楽が立ち上る様子を『 やぁ大変だ、大変だ、桜島の大噴火! 』

…と囃し立てる落語のような状況が描かれています。

きっと、わずか3か月前に大勢が亡くなった桜島噴火を気にして、偽名で発表した作品かもしれません。

なお、神事の「神楽(かぐら)」の舞いは冬の季語なので、「灰神楽」も冬の季語として扱われることが多いようです。

《 灰神楽 暗に大根 つみおきて 》田中幸子(1905?〜1975)

《 灰神楽 水仙にしばし ありて降る 》松根東洋城(1878〜1964)

そして「大根」も「水仙」も実は冬の季語ですから、俳句のなかに季語が二つあるというのも“灰神楽”という言葉の“俗っぽさ”を象徴しているのやもしれません。

さて…、灰神楽のニュースが気になりすぎて脱線しましたが、最後に真面目な防災のお話をします。


桜島は安全か危険か

桜島という火山は特殊です。噴火が日常に溶け込みながら、同時に大規模噴火の可能性を抱える「二面性」を持っているからです。

現在の科学的評価は、「将来的に大規模噴火はあり得るが、直ちに起きる兆候はない」というものです。2025年の政府評価でも、姶良カルデラ地下にはマグマが蓄積している一方で、桜島直下への供給は少なく、現時点で切迫性は認められていないと評価しています。

※政府・火山調査委員会 報告書「桜島の現状の評価及び調査研究方策」(2025年2月17日公表)
https://www.mext.go.jp/content/20250217-mxt_jishin01-000040346_25.pdf

しかし重要なのは、「兆候がない=起きない」ではないという点です。

姶良カルデラは長期的に膨張を続けており、桜島は今もエネルギーを蓄積している状態にあります。

桜島の大噴火は、1914年の大正噴火のように、大量の降灰、火砕流、溶岩流が同時に発生し、地形や都市機能にまで影響を及ぼす規模を指します。すると、こうした桜島大噴火は、天平宝字(8世紀)、文明(15世紀)、安永(18世紀)、大正(1914年)の4回しか発生していません。

一方で、現在、毎日ように鹿児島で見られる噴火は、1955年以降長く続いている「ブルカノ式」の小規模爆発とされ、これは桜島にとっては「日常」です。

ただ、この日常の延長線上に、まったく別次元の大規模噴火が存在しています。

つまり桜島は、日常的な小噴火と、数百年に一度の大規模噴火という二面性のある火山ということが分かってきています。
そして大規模噴火までの移行は、必ずしも長い予兆を伴うとは限らない可能性があります。
だからこそ、現在の評価は「差し迫ってはいないが、いつか起こり得る」というもので、過度に不安を抱く必要はないが、その先にある大規模噴火を前提に備える必要がある、という議論が続いています。

【火山噴火の様式と危険性(VEI=火山爆発指数のレベル 最低0〜最大8 )】

  • ハワイ式 … サラサラと溶岩が流れる。比較的安全だが、溶岩が広範囲に及ぶ(危険度低)
    • ハワイ「キラウエア火山」(2018年 / 死者1人 / VEI 2)
  • ストロンボリ式 … 小規模爆発をくり返す(長く続く)。噴石が飛ぶが、被害は局地的(危険度低)
    • イタリア「ストロンボリ火山」(2019年 / 死者1人 / VEI 2)
  • ブルカノ式 … 短時間の強い爆発(爆風あり)で噴石や火山灰が飛ぶ。数km圏で危険(危険度中)
    • 長野県・岐阜県「御嶽山」(2014年 / 死者63人 / VEI 2 )
  • ペレー式 … 溶岩ドームが形成し、致死性の火砕流が高速で流下、局地的被害(危険度大)
    • フランス領マルティニーク「プレー火山」(1902年 / 死者約30,000人 / VEI 5 )
    • 長崎県「雲仙普賢岳」(1991年 / 死者43人 / VEI 2)
  • プリニー式 … 巨大噴煙柱(10km以上)・大量の火山灰。降灰が数100km規模、大噴火なら気候変動あり(危険度大)
    • イタリア「ヴェスヴィオ山」(西暦79年 / 死者約2,000人 / VEI 5 )
    • 「富士山宝永噴火」(1707年 / 死者不明(記録なし) / VEI 5 )
    • 「桜島大正噴火」(1914年 / 死者58人 / VEI 4 )
    • インドネシア「クラカタウ火山」(1883年 / 死者約36,000人 / VEI 6)
    • グアテマラ「サンタマリア山」(1902年 / 死者約6,000人 / VEI 6 )
  • カルデラ噴火(破局噴火) … 超巨大噴火。火砕流・降灰が数100km〜地球規模(危険度極大)
    • インドネシア「タンボラ火山」(1815年 / 死者約71,000人 / VEI 7)
    • 日本「鬼界カルデラ」(約7300年前 / 九州南部が壊滅 / VEI 7)
    • 日本「阿蘇カルデラ」(約9万年前 / 九州ほぼ壊滅、北海道にも降灰 / VEI 7)

(注)実際の火山噴火は複合型が多いので、上記は一般説明向けに単純化したものです。


※関連コラム > 桜島大正大噴火の解説と石碑「科学不信の碑」(2023.01.16)
https://shisokuyubi.com/bousai-kakugen/index-937



《 執筆者 》
SEI SHOP(セイショップ)総合プロデューサー
平井敬也(ひらいひろや)

平井敬也

防災士(日本防災士機構登録No.040075)、日本人間工学会会員。
1970(昭和45)年、東京都世田谷区生まれ。神奈川県横浜市在住。日本大学大学院で安全工学・人間工学を専攻。大学院修了後、大手ゲーム製造メーカーに入社、企画開発、PL(製造物責任法)担当や品質管理(ISO9000)に携わる。2001(平成13)年、災害用長期備蓄食〈サバイバル®フーズ〉の輸入卸元、株式会社セイエンタプライズ取締役に就任。阪神淡路大震災で家族が神戸で罹災、日常の防災意識や危機管理の啓蒙普及を企図した無料メールマガジン『週刊防災格言』を07年よりスタート。毎週月曜日に防災格言を発信し続け2万人の読者を得ている。
【書籍】天災人災格言集―災害はあなたにもやってくる! ¥1,650(税込)




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